〔九蹴日記〕鹿児島:「悔しい思いがあったから結果につながった」。苦しみを乗り越えたプロ初ゴール〔藤井貴之選手:鹿児島〕



  • J3リーグ第20節でプロ初ゴールを記録した藤井貴之選手。ゴールへの嗅覚と強烈なシュートに加え、前線からの守備でもチームに貢献できる献身性も兼ね備えたストライカーだ。

平成28年7月16日、鹿児島県立鴨池陸上競技場。藤井貴之選手は、鹿児島ユナイテッドFCの一員として記念すべき初先発の日を迎えた。得点ランキングトップを走る、エース藤本憲明選手の負傷欠場によって巡ってきたチャンス。ゴールへ向かう気持ちやシュート精度といったFWとしての資質を期待され、山田裕也選手、川森有真選手といった強力なライバルたちを抑えての大抜擢だった。
この日の相手は首位・栃木SC。その時点で2位だった鹿児島にとって、天王山とも言うべき試合だった。藤井選手のプレーからは並々ならぬ気合いが漲っており、栃木の強固な守備陣をこじ開けるべく、屈強なDFにも臆することなく立ち向かっていった。難しい体勢からでもシュートを放ち、ゴールを奪うことへの意識の高さも垣間見えた。

だが、結果は0-1での敗戦。藤井選手は後半12分という早い時間で交代を告げられた。試合終了直前に決まった栃木の決勝ゴールを、ピッチの外から見ているしかなかった。
試合後、初先発の試合を終えたルーキーを報道陣が取り囲んでいた。
「ピッチに入る前は多少の緊張はあったんですけど、入ってからは緊張も何もなく、楽しんでプレーできたとは思っています。自分としては、シュート2本で終わってしまったので、もっと4、5本とか、もっともっと打っていったら、チームの流れも引き寄せられますし、シュートに自信があるので。枠を捉えれば何かが起きるというところで、シュートを打てる部分をパスを選択してしまったりしたので、そこをもっと自分で強引に行かないといけないと思いました。ホームで勝ち点3を落としてしまったというのは大きいことですけど、次節の富山とのアウェーに向けて今週一週間しっかり頑張って、今日勝ち点3を獲れなかった分、鹿児島のファンやサポーターの皆様に富山から絶対に勝ち点3を持って帰るということを、しっかり切り替えてやっていきたいと思います」
チームを、自らを奮い立たせるかのようなコメントだったが、その言葉には悔しさが滲んでいた。

藤井貴之選手にとって、プロサッカー選手になることは、サッカーを始めたその時からの目標だった。サンフレッチェ広島ユースから日体大へ進学。普通に就職活動をして、一般企業の内定をもらってくる仲間もいる中で、鹿児島からのオファーがあったことは「素直に嬉しかった」という。
「卒業してからもサッカーができる環境を下さった鹿児島ユナイテッドさんには感謝してるので、その感謝の気持ちを持ってプレーしたいなという思いがあって入団しました」

プロの世界に飛び込むことは賭けとも言えた。だが、試合に出て活躍する、自分が結果を出すんだという、ハングリー精神をむき出しにしたプロ選手たちの中で練習ができることは、彼にとって良い刺激になった。
「そういうのが好きなので」
藤井選手は言い切る。競争の中で生きていける、プロのメンタリティが感じられた。

加入後のキャンプ、ニューイヤーカップとアピールを続けた藤井選手は、その実力を認められ開幕戦、カターレ富山戦からベンチに名を連ねる。そして85分、途中出場でプロデビューを飾った。
「あまり緊張はしなかったですね。相手のカターレに高校の時の同期がいて、そいつも試合に出てたので、ベンチから『早くマッチアップしたいな』という思いで、むしろ出る時には、緊張というよりわくわくした気持ちで出ました。ピッチに入った瞬間に近くにそいつがいたので、一発目にそいつとハイタッチを交わしました」
富山の脇本晃成選手、石坂元気選手とは、広島ユース時代を共にしたチームメイト。脇本選手は開幕戦からスタメンでプロデビューを果たしていた。藤井選手のデビュー戦は5分間という短い時間ではあったが、かつての仲間との対戦で躍動、思い切りのいいプレーでJ3初戦での勝ち点獲得に貢献した。

しかし、その後約4か月間、藤井選手に出場機会は訪れなかった。
「正直に言うとしんどかったですね。ですけど、いつか自分に回ってくるっていう気持ちは持ってたので、練習からもそうですし、練習後は必ず残って、居残り練習も欠かさずやってました。やっぱり出ている選手と同じことをしていても、いつまで経っても平行線のままなので、何かしらの変化を加えていかないとメンバーに入り込めないなという思いがあったので。我慢の時期というか、辛抱しながら『やってやる』っていう気持ちを持ちながらプレーしてました」

試合に出ることができない期間をどう過ごすか。上手くいかない時に何をするのか。くさらず、チームが求めているプレーができる選手であることを、ひたすらアピールし続けていくしかなかった。そして、シーズンも中盤に差し掛かった頃、栃木戦での先発出場の機会が訪れた。

努力し続け、やっと掴んだチャンスだった。
それでも、結果は出なかった。思い通りのプレーができなかった。
立ち直れないほどのショックで、試合後は夜も眠れず、次の日まで切り替えることができなかった。

次の試合、富山とのアウェイゲームでは、川森選手が先発出場した。藤井選手の名前はベンチにもなかった。かつてのチームメイト、脇本選手はMFとしてこの日も先発出場していたが、開幕戦以来となるマッチアップは叶わなかった。

だが、続いて迎えた7月31日のJ3第19節YSCC横浜戦。藤井選手は再びベンチ入りを果たした。鹿児島・浅野哲也監督は、栃木戦でのパフォーマンスが藤井選手本来の力ではないと、彼ならもっとやれると考えていた。
「ポジション的に前の選手っていうのは、良いプレーをしていても点が獲れないと評価されない。これはやっぱり仕方のない事だと思います。ただ、僕は得点を獲ったからとか、獲らなかったからというよりも、普段の姿勢とか、試合に起用されたときの役割をしっかりできているかというか、そのあたりを見てるので、若干そういう面では、最初少し不安定な面もあったんですけど、栃木戦で先発させた時に、彼の能力ならもっとできたんじゃないかと思いました」

4-0でリードした64分から出場した藤井選手は、その期待に応えるかのように積極的にゴールを狙っていった。
「(中原)優生から速いクロスが来て、ヘディングで打ったシーンがあったんですけど、その後ろに(金久保)彩くんがフリーで待ち構えてたっていうのを後から知りました。彩くんが走っているのは見えてたんですけど、フリーっていう状況が見えてたのであればスルーでも良かったのかなと思いますけど、あの時間帯で、スコア的にも勝ってる試合の中だったら、あそこを自分で打った後悔はないですし、むしろ打って良かったなって思ってます。あとは与えられた短い時間帯の中で、二発撃ったら一発決めるっていうくらいもっと確率が高ければ、チームが0-0とか、0-1とかで負けてるシーンでも僕が出てチームに貢献できるっていうのを思ってましたね。あの時は4-0で勝ってたので気持ち的には楽でしたけど。やっぱり拮抗した試合になれば、もっともっと自分がしっかり仕留めるっていうのを、確実性を上げていかないといけないなっていう反省点が見えた試合でしたね」
結果的に得点を奪うことはできなかったが、栃木戦とは何かが変わっていた。

そして8月6日、藤井選手の地元大阪、キンチョウスタジアムでセレッソ大阪U-23戦。家族、友人も応援に駆け付けた。藤井選手はこの試合でもベンチからのスタートとなった。
結果を出したかった。だが、それは家族、友人のためだけではなかった。
「自分は与えられた時間の中で無得点だったので、それでもテツさん(浅野哲也監督)は僕を使ってくれるっていうことに何かしらの恩返しというか、結果で示したいっていう思いが強かったので、別に親が来たからとか、地元だからということはあまり頭になくて、とにかく今日は結果を出すっていう気持ちでピッチに入りました」

試合は後半開始直後、藤本選手のゴールで鹿児島が先制していたが、逆にピンチも多く、とても1-0で安心できるような状況ではなかった。同点に追いつかれてもおかしくない場面もあった。
そんな中、浅野監督は、藤井選手の持ち味である、前線からの激しいプレスと得点力に期待しピッチへ送り出す。守備と攻撃、両面での貢献が求められる展開だった。
「ノリくん(藤本憲明選手)がワントップに入ってたんですけど、ノリくんを一個落として、僕が一番前に入ってとりあえずボールを追っかけて、隙あらばゴールを獲ってこい、時間は短いけど行って来い、という強い感じで押し出されました。『行って来い』と言われる前からもう『行ってやる!』『俺が決めてやる!』っていう気持ちでした」

投入直後、GK山岡選手からのリスタート、そのロングボールに藤井選手が競り勝つと、藤本選手が前線でボールをキープする。
この時、試合に入ったばかりで走れる状態だった藤井選手は、最初は藤本選手を追い越すようなプレーを考えていた。だが、藤本選手がドリブルで切り込んでいくのを見て「これは自分でシュートに行くな」と思い直し、もしボールがこぼれたらいつでも飛び込める準備をして、後ろで待ち構えることにした。
結果、藤本選手のシュートはGKが左手一本でファインセーブ。ボールが宙を舞ったその時、一瞬の加速で誰よりも早くゴール前に飛び込んだのは、他ならぬ藤井選手だった。
GKの触れない位置へ冷静に流し込み、ついにプロ初ゴールを掴み取った。

大きく腕を広げ、雄たけびを上げる藤井選手。
チームの勝利を決定づける値千金のゴール。苦しんだ時を乗り越え、一つ殻を破った瞬間だった。

浅野監督も「またチャンスを与えて、それで結果をしっかり残しましたので、これをきっかけに彼はもっと飛躍をしてほしいなと思います。今の姿勢を貫くと。それでポジション的に点が獲れれば本人も乗ってくるだろうし、そういう流れで行ってほしいなと思いますね」と、これからの活躍に期待を寄せる。
藤井選手自身も「初得点獲ったわけですけど、もちろんこれで満足はしてませんし、やっぱりライバルはいっぱいいるので、それに負けないくらい、与えられた時間帯で、拮抗した試合、チームがしんどい試合の時とかに得点を獲って、チームに貢献できるようにこれから頑張っていきたいです」と、自身のプレーにさらに磨きをかけていくことを誓った。

初先発した栃木戦では、悔しい思いもした。
「けど、下を向いてても意味ないので、結果としてはこの間初得点獲ったんですけど、それは栃木戦の悔しい思いがあったから、あの結果につながったんじゃないかなと思いました。あれがあったから、悔しい気持ちをいつまでも持ってるから、それ以上の結果を出そうっていう気持ちでやってるので、当時はすごくショックというか、立ち直れないくらいだったんですけど、今となっては、自分の中で『これがあったから良かったな』と思えるような経験になっています」

厳しい競争の中に身を置き、今日も休むことなくライバルたちとポジションを争う藤井選手。苦しさ、悔しさも全て糧にして、前を向いて進んでいく。

   

   

  • 初ゴールの時のパフォーマンスについて伺ってみたところ、「それはけっこう聞かれたんですけど、興奮しててあんまり覚えてないんですよ。とりあえず嬉しかったことは覚えてるんですけど、後々リプレイ見てから自分がやったポーズとか見て、『ああ、こんなことしてたんだ』って思いました」とのこと。次はホームで、藤井選手のゴールパフォーマンスに期待したいですね!

Reported by 川畑究無



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